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横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)21号 判決 1984年4月18日

神奈川県横浜市神奈川区泉町一七番一〇号

原告

ヒルトン観光株式会社

右代表者代表取締役

小泉龍鳳

右訴訟代理人弁護士

小野寺富男

右訴訟復代理人弁護士

葛西宏安

同県同市同区栄町八番地六号

被告

神奈川税務署長

森屯

右指定代理人

池田直樹

屋敷一男

南須原勉

豊田治彦

江口厚太郎

大原豊実

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度分の法人税について、被告が同四七年一二月二五日付けでした更正のうち、課税所得金額欠損金五九八万四、三八二円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  原告の昭和四五年四月一日から同四六年三月三一日までの事業年度分の法人税について、被告が同四八年八月一三日付けでした再更正のうち、課税所得金額三五八万八、九六七円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち、税額五万二、八〇〇円を超える部分並びに同四七年一二月二五日付けでした重加算税賦課決定(同四八年五月三一日付異議決定により取り消された部分を除く。)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は旅館業を主たる目的とする株式会社であるが、昭和四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和四四年度分」という。)及び同四五年四月一日から同四六年三月三一日までの事業年度分(以下「昭和四五年度分」と、また、右の各年度分を「係争年度分」という。)の法人税について、原告のした確定申告、修正申告及び再修正申告、被告(本件に関する原処分庁は従来横浜中税務署長であったが、原告が昭和四八年五月二四日納税地を移転したので、同日以降は納税地移転後の原告の管轄税務署長である被告が原処分庁となり、また、同日以前にされた処分についても被告が原処分庁とみなされる。)のした更正、再更正、過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(以下、被告のした右各処分のうち、昭和四四年度分法人税についての更正及び重加算税賦課決定並びに同四五年度分法人税についての再更正、過少申告加算税賦課決定(同四八年八月一三日付けのもの)及び重加算税賦課決定(同四八年五月三一日付異議決定により取り消された部分を除く。)を「本件各処分」という。)並びに不服審査の経緯は、別表一の(一)、(二)記載のとおりである。

2  原告の昭和四四年度分法人税の課税所得金額は欠損金額五九八万四、三八二円であり、昭和四五年度分法人税の課税所得金額は三五八万八、九六九円であるから、被告のした昭和四四年度分法人税についての更正及び昭和四五年度分法人税についての再更正は、右の所得金額を超える限度で原告の所得を過大に認定した違法があり、したがって、これらに基づいてされた重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定も違法である。

3  よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は認めるが、同2の主張事実は争う。

三  被告の主張

1  昭和四四年度分法人税についての更正の根拠

(一) 原告の昭和四四年度分法人税の課税所得金額は、以下のとおり、一、七七八万六、二三〇円であるから、その範囲内でされた同年度分法人税の更正は適法である。

(二) 原告の昭和四四年度分の収支

(1) 収入金額(売上金額)合計 五、五七二万〇、五四二円

(2) 支出金額合計 三、七九三万四、三一二円

右(1)、(2)の各明細は別表二の被告主張額欄記載のとおりである。

(3) 課税所得金額 一、七七八万六、二三〇円

(三) 認定根拠

原告の申告した収支内訳は別表二の原告申告額欄記載のとおりであり、同申告額との間に食い違いのある収支項目について、被告主張額を認定した根拠は次のとおりである(いずれも加算項目である。)。

(1) 売上計上もれ 二、三七七万〇、六一二円

原告には、当該事業年度の損益計算の基礎となる売上げに関する帳簿が存在しないばかりか、売上計算の基礎となる客室使用記録(原始記録)が破棄されているなどにより、申告売上金額の計算内容が明らかでないため、被告の調査においては、原告が保持する書類のみでは正当な売上計算ができない状態であった。そこで被告は、やむを得ず次のとおり、利用客組数及び利用客一組当たりの売上高を計算し、それに基づき売上金額を算出した。

ア 利用客が使用したシーツの枚数について、株式会社アメリカンクリナース(シーツのリース業。以下「アメリカンクリナース」という。)に反面調査したところ、二万一、五四七枚と判明した。利用客一組に使用されるシーツの枚数は一枚であることからして、利用客組数は二万一、五四七組と認定した。

イ 原告から提示された昭和四四年一一月一五日から同四五年一月二八日まで及び昭和四五年三月一日から同月三一日までの料理飲食等消費税(以下「料飲税」という。)領収証控に基づき利用客一組当たりの平均売上高を計算したところ、その金額は二、五八六円であった。なお、右領収証控には免税点以下の売上げも含まれているから、被告の算出した平均単価が不当に高いということはない。

ウ したがって、次の算式に示すとおり売上金額は五、五七二万〇、五四二円となるので、被告は同金額と申告による決算計上売上金額三、一九四万九、九三〇円との差額二、三七七万〇、六一二円を売上計上もれと認定した。

(算式)

利用客組数×一組当たり売上高=売上金額

二二万一、五四七組×二、五八六円=五、五七二万〇、五四二円

(2) 公租公課否認 三、〇〇〇円

県民税及び市民税三、〇〇〇円は、法人税法三八条二項三号により損金に算入されないので否認した。

(3) 減価償却の償却不足額否認 一六六万四、一八四円

原告の申告書に添付された「減価償却資産の償却額の計算に関する明細書」には当該償却不足額に相当する金額の記載がなく、かつ、原告の当該減価債却資産については租税特別措置法四三条ないし四九条、五一条及び五一条の二に規定する特別償却の対象となるものがあるとは認められないから、当該金額一六六万四、一八四円は同法五二条の三に規定する特別償却不足額に相当するとは認められないので否認した。

2  昭和四四年度分法人税に関する重加算税賦課決定の根拠

原告は、後記(一)ないし(四)のとおり、売上げを除外し、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき法人税確定申告書を提出したものである。

よって、被告は、右売上計上もれの額を重加算税対象所得とし、国税通則法六八条二項の規定に基づいて、原告の昭和四四年度分法人税の更正に係る増加所得金額一、三四五万三、〇二四円に対する法人税額四四九万八、〇〇〇円(同法一一八条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数五〇〇円を切り捨てた。)を基礎として重加算税一五七万四、三〇〇円を算出した。

なお、原告の隠ぺいしたところに基づく売上除外金額は二、三七七万〇、六一二円、増加所得金額は一、七七八万六、二三〇円であり、いずれも原告の昭和四四年度分法人税の更正に係る増加所得金額一、三四五万三、〇二四円を上回っているから右増加所得金額を基礎として算出した本件重加算税賦課決定は適法である。

(一) 原告の経営する同伴旅館の各客室の利用料金は一定ではない。そこで、利用客に対し料金を請求するには、各客室ごとの利用時間等を記録する通常客室利用記録と呼ばれる原始記録(以下「客室利用記録」という。)に基づき利用時間等に応じて利用料金を計算し、これを基に利用客に対し具体的に料金を請求しているものである。したがって、原告の売上金額の計算は、右客室利用記録に基づいて算定されるものであるにもかかわらず、原告は、右客室利用記録を売上除外の目的をもってこれをすべて破棄し、更に、飲料税領収証控の大部分及び損益計算の基礎となるべき売上帳を作成ないしは保存しない等売上金額の計算の基となる書類を破棄するなどして売上金額の一部を除外していたこと。

(二) 原告は、利用客が使用するシーツ(包布)、浴衣、ピロケース、タオル等についてアメリカンクリナースからリースを受けていたところ、右のうち、シーツ(包布)のリース枚数が判明すれば、それから利用客の組数を把握することもでき、ひいては原告の売上金額を推計する根拠となり得べきものであるところ、原告は、アメリカンクリナースに対し、右リースに係るシーツ(包布)等の各月分の合計枚数を二枚の請求書に分割して発行するよう依頼し、そのとおり実行させていた。そして、原告は、アメリカンクリナースに対して、右二枚の請求書の一枚に対応する領収書には基本料金分とし、他の一枚に対応する領収書にはリネン代分としてそれぞれ記載し、発行させる等シーツ(包布)のリース枚数を隠ぺいしていたものであり、このことは原告が売上金額を除外する意図であったものと認められたこと。

(三) 原告の翌事業年度の元帳における現金勘定をみると、日々の現金残高は大部分がマイナスを示しており、特に昭和四五年七月二〇日現在の現金残高のマイナスは七五一万七、七五三円にも達していることが認められる。

右事実は、売上金額の入金の一部を除外して記帳しなかったために生じたものと認められること。

(四) 昭和四四年度において原告は、横須賀信用金庫からの借入金の期末残高が六、九九〇万円であるにもかかわらず、架空借入金五〇〇万円を計上して、同信用金庫に対する借入金期末残高を七、四九〇万円と増額させていることが認められる。このことは、売上除外による売上金額の不足の一部を填補する目的で仮装したものとしか考えられないこと。

3  昭和四五年度分法人税についての再更正の根拠

(一) 原告の昭和四五年度分法人税の課税所得金額は、以下のとおり、四、四三四万七、三五三円であるから、その範囲内でされた同年度分法人税の再更正は適法である。

(二) 原告の昭和四五年度分の収支

(1) 収入金額合計 一億一、一七三万一、二〇五円

(2) 支出金額合計 六、七三八万三、八五二円

右(1)、(2)の各明細は別表三の被告主張額欄記載のとおりである。

(3) 課税所得金額 四、四三四万七、三五三円

(三) 認定根拠

原告の申告した収支内訳は別表三の原告申告額欄記載のとおりであり、同申告額との間に食い違いのある収支項目について、被告主張額を認定した根拠は次のとおりである。

(1) 加算項目

ア 売上計上もれ 九〇五万四、二七九円

原告は、当該事業年度の損益計算の基礎となる売上金額に関する帳簿は保存していたが、売上金額算定の原始記録である客室使用記録は保存していないことなどにより、原告の申告売上金額の当否について確認することができないため、被告は昭和四四年度と同様の計算方法により売上金額を算出した。その結果、売上金額は二、三一四万三、六九六円となるので、同金額と申告による決算計上売上金額一、四〇八万九、四一七円との差額九〇五万四、二七九円を売上計上もれと認定した。

(算式)

利用客組数×一組当たり売上高=売上金額

九、五三二組×二、四二八円=二、三一四万三、六九六円

なお、利用客一組当たりの売上高の算出の根拠となった料飲税領収証控は、昭和四五年六月一日から同年八月三一日までの分である。

イ 給料手当否認 七五万二、九二〇円

原告の従業員等の給料手当の合計金額を源泉徴収に係る所得税の一人別徴収簿に基づいて計算したところ、三一三万三、七九五円が正当であるので、同金額と申告による決算計上金額三八八万六、七一五円との差額七五万二、九二〇円を否認した。

ウ 雑収入計上もれ 一三万五、五〇〇円

旭広告社から昭和四六年一月一八日に受領した広告器具代の返戻金一三万五、五〇〇円が計上もれであるので、雑収入として加算した。

エ 建物等譲渡価額過少計上 三、五〇〇万円

(a) 原告は、小泉龍鳳(以下「小泉」という。)及び三井観光株式会社(以下「三井観光」という。)がそれぞれの持分二分の一で共有する横浜市西区楠町五番の二及び同所同番の一〇所在の宅地四九七・四一平方メートル及び四二一・三六平方メートルの合計九一八・七七平方メートル(以下「本件土地」という。)を賃貸し、同地上に同伴旅館用建物(以下「本件建物」という。)を所有し事業の用に供していた。

(b) 原告及び本件土地所有者は、協議の上、昭和四五年七月二一日に本件土地及び本件建物並びに原告の事業に附帯する原告所有の構築物、器具備品及び電話加入権等を一括して日栄実業株式会社(以下「日栄実業」という。)に一億三、五〇〇万円で譲渡し、原告は八、五〇〇万円、本件土地所有者は五、〇〇〇万円をそれぞれ受領した。

(c) ところで、本件土地建物の売買契約書によれば、本件建物の価額は八、五〇〇万円及び本件土地の価額は五、〇〇〇万円と表示されているが、本件土地の売買契約書上の表示価額は業界の取引慣行からみれば更地価額と解されるので、原告の借地権の価額は更地価額五、〇〇〇万円に本件土地の所在地域の借地権の割合(七〇パーセント)を乗じて計算した三、五〇〇万円となる。

(d) したがって、本件土地の所有者である小泉及び三井観光の有する本件土地の底地の価額は、更地の価額五、〇〇〇万円から借地権の価額三、五〇〇万円を差し引いた額一、五〇〇万円となる。よって、小泉らが取得すべき金額は、本来自己に帰属すべき本件土地の底地のみの価額一、五〇〇万円であるところ、前記のとおり右両名は五、〇〇〇万円の全額を取得している。したがって、その差額三、五〇〇万円は本来原告が取得すべき借地権に対する金額であるところ、これを小泉らが取得したのであるから、原告から小泉らに同額の経済的利益の供与をしたこととなる。

右の経済的利益の供与の額三、五〇〇万円は、本来原告の本件建物等の譲渡の価額として益金に計上すべき額であるから、被告はこれを原告の所得金額に加算した。

オ 寄付金の損金不算入額 一、六九三万六、一一〇円

後記(2)ケの寄付金については、法人税法三七条二項の規定により計算したところ、損金算入限度額を超えているので、その超える金額一、六九三万六、一一〇円を加算した。寄付金の損金不算入額の計算は別表四記載のとおりである。

カ 繰越欠損金否認 四〇四万九、七二二円

被告は、原告が昭和四四年度分以降青色申告の承認を受けた法人でなくなっているので、法人税法五七条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)の適用は認められないことと、併せて昭和四四年度分法人税の更正により翌期に繰り越される欠損金は存在しないことから、原告が申告で控除した繰越欠損金四〇四万九、七二二円を否認した。

(2) 減算項目

ア 広告宣伝費認容 一〇万〇、五七五円

原告が日新社に昭和四五年四月一〇日支払った三万六、〇〇〇円及び株式会社帝国社に対する未払金六万四、五七五円の合計一〇万〇、五七五円を認容した。

イ 賃借料認容 四二万九、〇〇〇円

相模鉄道株式会社所有の原告の隣地(横浜市西区楠町五番の一二)に所在する駐車場の賃借料として原告が昭和四五年四月から同年九月までに同社に支払った三二万四、〇〇〇円(月額五万四、〇〇〇円)及び川崎市高津区土橋四二三に建物建設用地確保のため、大久保義平から賃借した連絡事務所の同四六年一月から同年三月までの家賃一〇万五、〇〇〇円(月額三万五、〇〇〇円)の合計四二万九、〇〇〇円を認容した。

ウ 事業税認定損 一四七万九、三六〇円

昭和四四年度分法人税の更正に係る所得金額に事業税の税率を適用して、同四五年度分の損金に算入すべき未納の事業税の額一四七万九、三六〇円を認容した。右事業税の計算は、別表五記載のとおりである。

エ 修繕費認容 五万一、九〇〇円

原告が株式会社富士見工業に昭和四五年四月六日支払った四、〇〇〇円及び太陽インテリアに同月一八日支払った四万七、九〇〇円の合計五万一、九〇〇円を認容した。

オ 修繕費認容 二万六、〇〇〇円

原告がにしきジュータンクリーニングに昭和四五年四月九日に支払った二万六、〇〇〇円を認容した。

カ 受取利息過大計上 二〇万六、一九二円

被告は、原告の受取利息について横須賀信用金庫本店において調査したところ、昭和四五年度分の受取利息の額は一一三万六、五五八円が正当であり、決算書計上金額一三四万二、七五〇円は誤りであると認められたので、その差額二〇万六、一九二円を減算した。

キ 支払利息割引料認容 五八万八、一五一円

横須賀信用金庫本店において調査したところ、昭和四五年度分の支払利息の額は六五四万四、六八五円が正当であり、決算書計上金額五九五万六、五三四円は誤りであると認められたので、その差額五八万八、一五一円を認容した。

ク 固定資産売却損認容 一二〇万円

原告が、昭和四四年五月、栄昌産業株式会社から取得した建物附属設備(給湯設備等)一二〇万円は、原告の帳簿に記載されていなかったが、当該建物が前記3(三)(1)エのとおり昭和四五年七月二一日日栄実業へ譲渡されたことに伴い、被告は右一二〇万円を譲渡資産の価額として認容した。

ケ 寄付金認容 一、七五〇万円

前記3(三)(1)エの経済的利益の供与の額三、五〇〇万円の二分の一の額一、七五〇万円は、三井観光が取得したものであるから、法人税法三七条五項の規定により同社に対する寄付金として認容した。

なお、三、五〇〇万円から右三井観光が取得した一、七五〇万円を差し引いた残額一、七五〇万円は原告の実質的な代表者である小泉が取得したものであるから、法人税法三五条の規定により役員に対して支給した臨時的給与(賞与)に当たり損金に算入されない。

4  昭和四五年度分法人税に関する重加算税及び過少申告加算税各賦課決定の根拠

原告の昭和四五年度分法人税について被告のした同四七年一二月二五日付更正に係る増加所得金額七二万七、九六二円(同四八年五月三一日付異議決定により一部取り消された後のもの)のすべてが昭和四四年度分と同様の理由により、原告の隠ぺいしたところに基づく売上除外金額からなるものであるから、被告は国税通則法六八条一項の規定に基づいて右増加所得金額七二万七、九六二円に対する法人税額二〇万三、〇〇〇円(同法一一八条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた。)を基礎として重加算税六万〇、九〇〇円を算出したものである。

なお、原告の隠ぺいしたところに基づく売上除外金額は九〇五万四、二七九円、増加所得金額は四、四三四万七、三五三円であり、いずれも原告の昭和四五年度分法人税について被告のした昭和四七年一二月二五日付更正に係る増加所得金額七二万七、九六二円を上回っており、また、原告の同年度分法人税について被告のした昭和四八年八月一三日付再更正に係る増加所得金額一、九七三万六、七四三円のうち右重加算税対象所得とした以外の所得金額については、昭和四五年度分の法人税確定申告を過少に行っていたので過少申告加算税対象所得とし、国税通則法六五条一項所定の計算により算定した三三万九、三〇〇円の過少申告加算税の賦課決定を行った。

したがって、右各賦課決定はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1(一)は争う。

(二)(1)  同1(二)(1)の事実は否認する。

(2) 同1(二)(2)の事実は認める。

(3) 同1(二)(3)は争う。

(三)(1)  同1(三)(1)の事実は否認し、被告の推計方法は争う。

(2) 同1(三)(2)(3)は認める。

2  被告の主張2は争う。

(一) 原告が客室利用記録を売上除外の目的をもってすべて破棄したとの事実は否認する。

原告は、客室利用記録なる名称の書類は作成していなかったのであり、原告はすべての利用客ごとに公給領収書を発行するよう県税から指示されていたことから、その指示どおりに公給領収書を発行して、その控に利用料金を記入し、それをいわゆる原始記録として保存し、それに基づいて元帳を作成しておくという方法で売上金額を把握していたのである。

そして、原告は、当時ホテル業を始めて日も浅く、かつ経理の知識経験もなかったため、営業開始早々から経理にくわしい松沢常朗(以上「松沢」という。)に原告の経理を依頼し、その結果、原告は毎月一、二回程度の割合で右領収書等をまとめて松沢の事務所へ届け、元帳を作成してもらっていたのである。

なお、税務署による本件調査時(昭和四七年ころ)に右控が全部は存在しなかった(営業時間約一八か月中約六か月分のみ残存)のは、原告が公給領収書裏面に印刷されていた注意書から半年間保存すればよいものと誤信していたこと及び原告が移転したため関係書類が一部散逸したためにすぎない。

(二) 原告が売上除外の目的をもってアメリカンクリナースに対し、シーツ等のリース代金につき、各月請求書を二枚に分割して発行するよう依頼し、そのとおり実行させていたとの事実は否認する。

この点については、原告、アメリカンクリナース両者ともに一致して否定しているところである。

被告は、アメリカンクリナースが原告にリースしたシーツの枚数とホテル利用客組数とは同一であると主張する。しかしながら、アメリカンクリナースから原告にリースされたシーツの枚数については争いのあるところであり、その点はさて置くとしても、被告の右主張は原告・アメリカンクリナース間の取引の実態を無視した不当なものである。

すなわち、アメリカンクリナースは、原告に納品した品物の枚数そのものを基に請求書を作成していたというのであり、アメリカンクリナースが納品した品物の中には客に使用させられないような不良品が混在していたのであるから、本来ならば請求書の枚数から不良品の枚数を控除するか、請求金額を減額すべきところ、アメリカンクリナースはそれをせず、他方、原告はリース品を洗濯に戻す際、原告所有の営業用品や原告従業員・家族の洗濯物まで一緒に出してアメリカンクリナースに洗濯させていたが、その代金を格別支払わずにいたので、原告はアメリカンクリナースから請求された金額をそのまま支払っていたのである。

また、アメリカンクリナースは、その従業員から右のように原告がリース品以外の品物の洗濯をさせながらその代金を支払わなかったことについて苦情が出された際、シーツの枚数を実際に納品した枚数より増やして原告に請求するよう指示していたというのであるから、いずれにしてもアメリカンクリナースの原告に対するリース代金請求書記載のシーツの枚数と原告のホテル利用客組数とが一致しないことは明らかである。

(三) 被告は、原告の元帳における現金勘定がマイナスになっている点をとらえて、それは売上金額の入金の一部を除外して記帳しなかったために生じたと主張する。しかし、元帳の現金勘定がマイナスになっているのは、原告がその実質的代表者である小泉の個人会社であったこと、当時原告が設立間もなくであり、かつ小泉も経理の知識に乏しく個人と法人とを混同していたため生じたことである。すなわち、会社に対し支払請求が来た際に会社の資金がない場合、小泉が代わって支払をしていたことがあり、その場合、本来ならば小泉の会社に対する貸付けとして処理すべきところ、それを怠っていた結果にすぎない。

(四) 原告が売上除外による売上金額の不足の一部を填補する目的て、昭和四四年度において横須賀信用金庫からの架空借入金(五〇〇万円)を計上していたとの事実は否認する。

3(一)  被告の主張3(一)は争う。

(二)(1)  同3(二)(1)のうち、別表三の被告主張額欄記載の売上計、建物等譲渡価額過少計上及び寄付金の損金不算入額の各項の金額はいずれも否認し、その余の事実は認める。

(2) 同3(二)(2)のうち、別表三の被告主張額欄記載の給料手当の額は否認し(ただし、一人別徴収簿に基づいて計算すると、被告主張額であることは認める。)また、租税公課の額一九七万一、六一〇円のうち一四七万九、三六〇円及び寄付金の額一、七五〇万円は否認し、その余の事実は認める。

(3) 同3(二)(3)は否認する。

(三)(1)  同3(三)(1)のうち、ウは認め、その余はいずれも否認する。なお、カのうち、原告が青色申告法人でなくなったため、欠損金の繰越しが認められなくなったことは争わない。

(2) 同3(三)(2)のうち、ウ及びケは否認し、その余は認める。

4  被告の主張4は争う。前記2と同様の理由により、原告が売上金を隠ぺいしたとの事実は否認する。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  昭和四四年度分及び同四五年度分の各売上計上もれについて

被告は、原告の昭和四四年度分及び同四五年度分について、いずれも売上金額を推計によって算出し、売上計上もれがあるとしているが、以下に述べるとおり不当である。

(一) 課税標準の算出に当たり推計が認められるのは、(1)推計の必要性(帳簿、証憑類等直接計算の根拠となる資料が存在せず、かつ納税者が非協力的であること)及び(2)推計の合理性(推計の基礎となった資料の正確性、推計方法の具体的妥当性)の各要件が認められる場合であると考えられるが、本件の場合は右推計の必要性と推計の合理性のいずれもが欠けている。

(二) 本件における推計の必要性の不存性

本件にあいては、少なくとも昭和四五年度分の総勘定元帳は存在し、かつ、提示されているのであるが、このように元帳が存在するときに、これを計算の根拠とせず、別の資料をもって推計計算をすることが許されるのは、右元帳の正確性について明白な欠陥がある場合でなければならない。

本件においては、右元帳の正確性について明白な欠陥があるということはできない。すなわち、

第一に、被告は原始記録として客室利用記録が提示されないことを右否認の根拠として挙げるが、原始記録としては客室利用の記録なるもののみが信憑性のある記録とはいえないのである。料飲税領収証控も客が代金を支払うに際して発行される領収証の控であり、売上げの発生の都度記録されるものであるから、領収証の控自体十分に原始記録といい得るものである。したがって、原告の場合、元帳を検証し得る原始記録は存在していたのである。

第二に、記帳についても、被告は、日々の取引を継続的に記録したものではなく、かつ、現金残高と照合していないというが、右の元帳の現金の勘定科目欄は毎日の入・出・残が記帳されており、また、現金について、原告においては、毎日の現金の残高と帳簿上の残高の不突合分(過不足分)は借入金勘定科目欄を利用して調整している。したがって、原告においては現金の実際残高と帳簿上の残高との不突合分はそのまま放置することなく借入金口座を利用して調整し、実際残高と帳簿上の残高を合致させていたのである(現金実際残高過剰の場合は、過剰分だけ借入金の増加、残高不足の場合は不足分だけ借入金の減少となる。)。日常の経理業務として現金の帳簿上の残高と実際の残高とは大きくない額の過不足すなわち不突合を生ずることがしばしばであるが、原告においてはこれを放置することなく、借入金口座を用いて過不足を調整していたもので、このような調整を行って帳簿残高と実際残高を一致させていたことは、原告の帳簿の信用性を高める事実である。

第三に、被告は料飲税領収証控が三か月分程しかないというが、少なくとも三か月分はこれを根拠として元帳の正確性は検証し得るはずであるのに、これが行われておらず、かえって三か月分しかないということで、右元帳全体の正確性を否定することは、はなはだ不合理である。

以上のように、被告が原告の元帳の正確性を否定する根拠には合理性がなく、したがってまず基本的な点で被告の推計計算は否定されるべきである。

次に、原告の被告の調査に対する協力についてであるが、被告は、本件の借地権の問題から生ずる営業外収益の認定について原告代表者小泉から供述を得て申述書を作成し、同様に原告の経費責任者松沢からも右事実について申述書を作成している。しかるに、本来のホテル営業の売上げについては、このような調査をしていない。原告は、営業外収益の調査に対して協力し、右各申述書が作成されたのであるから、本来の営業収益に対しても調査の協力を求められた場合には当然協力したと考えられる。

したがって、多くの裁判例が推計課税の要件の一つとする調査に対する非協力という事実も原告には存在していない。

(三) 本件における推計の不合理性

被告は、前記原告の元帳を課税標準算出の資料として使用せず、原告のホテル営業の売上額の計算の根拠として、客数については客の使用したシーツの枚数によってこれを把握しようとし、シーツの枚数の算出に当たっては原告にシーツのリースを行っていたアメリカンクリナースの原告に対する毎月分の請求書からシーツの枚数を合計し、これを根拠としてシーツ一枚に客一組として期中の客迅を計算している。

しかしながら、右アメリカンクリナースの請求書はそれ自体正確性を欠くものであり、これを用いることは妥当性を欠き、かつ、計算の結果ははなはだしく不正確なものとなる。

すなわち、本件当時右アメリカンクリナース自体横浜南税務調査を受け、約三〇〇万円に上る多額の更正と重加算税を課せられており、本件の調査に際してもアメリカンクリナースは総勘定元帳、売上帳等の帳簿の提示を拒否しており、原告に対する同会社の請求書の控のみを提示した。しかも、なぜか右請求書は毎月分とも同金額の請求書が二枚ずつ存在している。右のような異常な状態について被告は同社の元帳、その他補助簿も一切見ず、また、同社の経理担当者からもその理由を確かめず、毎月分の各二通の請求書のうち各一通ずつは前月分の繰越額と後月分の前月残とが一致するから毎月分の二通は一通ずつ別個の請求書であると認定してその二枚の請求書を合計して、シーツの枚数を算出したというのである。更に、請求書のシーツの枚数には原告がその家族用の洗濯物、従業員の衣料の洗濯物、足ふきマット等原告が無料で洗濯をさせた分が架空のシーツの枚数として加算されている。

したがって、前記請求書のシーツの枚数は、それを根拠となし得ない程不正確なものであったのではある。

2  給料手当否認について

原告の従業員のうちに昭和四五年度途中で採用され、同年度中に退職した者が数名いるが、原告はこれらの者について源泉徴収に係る所得税の一人別徴収簿を作成していなかったので、右の者に対する支払給料合計額七五万二、九二〇円は損金として認容されるべきである。

3  建物等譲渡価額過少計上について

(一) 被告は、原告が本件建物並びに原告の事業に附帯する原告所有の構築物、器具備品及び電話加入権等を一括して日栄実業に八、五〇〇万円で譲渡した点に関し、右建物価額は過少であり、本件建物等の譲渡の価額としては一億二、〇〇〇万円が妥当であるから差額三、五〇〇万円は益金に算入すべきであるとし、これを原告の所得金額に加算している。

しかし、被告は本件建物の譲渡価額が過少だと主張しながら、本件建物の建設費、取引価額等を検討するなどの方法により本件建物自体の適正価額を吟味する手続を放棄し、本件建物価額には本来含まれるべき借地権価額が含まれていないとして一方的に本件土地価額を算定したうえ、同価額を基に借地権価額を算出し、同価額を右本件建物売買価額に加算しているのであるから、被告の右主張は方法論において重大な誤りを犯しているというべきである。

特に本件建物は建築工事の瑕疵により水漏れ等が発生し大修理を要する状態であり、したがって、本件建物の時価が低くなるのは当然であり、本件建物価額の評価は慎重になされるべきである。

(二) 次に、被告の主張は本件土地に借地権が存在することを前提にしているが、本件土地使用の関係はいわゆる使用貸借であるから、右主張は失当である。

すなわち、被告は原告の帳簿等に未払金として借地権及び賃料の記載があることから直ちに本件土地には借地権が設定されているものと断定し、原告が右金員の支払を否定しているにもかかわらず、原告が土地所有者に対し現実に権利金・賃料の支払がなされていたか、あるいは当事者が真実その意思を有していたか否か、更には本件土地所有者と本件建物所有者の関係、本件土地使用の経緯等の調査をせず、漫然借地権を認定している。

しかしながら、本件土地の共有者は小泉及び三井観光であり、その使用者は原告であるところ、三井観光及び原告の実質的経営者は小泉であって、その役員は同人ないし同人の一族であり、したがって、本件土地使用関係は経済的にはあたかも自己の所有地を自ら使用するのと同様の関係であり、その結果右当事者は本件土地使用に当たり本件土地に借地権を設定するとの認識は有しておらず、借地権設定の対価等も一切支払われておらず、かつ、本件土地使用の対価も支払われていなかったというのであるから、原告による本件土地使用の関係は使用貸借関係であったことは明らかである。

(三) また、仮に借地権があることを前提として考えてみても、本件は土地・建物を同時に第三者に譲渡した事案であるから、借地権の無償返還に類似している。

借地権の返還の場合、通常収受すべき立退料の全部又は一部を収受していない場合においても、その返還の起因がその収受しないことについて合理的な相当な理由があるときは課税しない旨扱うのが課税の実務である。したがって、立退料のみなし課税をするには、当該賃貸借成立の経緯、内容、借地権の返還をするに至った経緯等の具体的事情を勘案し、立退料を受け取らないことにつき十分の理由があるのか、無いとすればその金額はいくらが相当かを吟味すべきであり、一律に立退料を認定課税すべきではない。

そして、本件の場合、前記のとおり、建物所有者(原告)から土地所有者に対して一切金員支払の事実がないこと、本件建物所有者が本件土地を使用した期間はわずか二年程度であること、本件売買がなされた直接の原因は本件建物に瑕疵が存し、そのままでは原告がホテル業を継続できない状態であったため、建物所有者である原告が本件建物売却の必要に迫られ、その結果本件土地も同時に日栄実業に譲渡することになったのであり、いわば土地使用者が自らの必要によりその使用を断念した関係にあること、したがって、本件は右使用権を無償で返還するにつき相当な理由があった事案なのであるから、右土地使用権の無償返還は土地所有者に経済的利益を供与したことにはならないと解すべきである。

(四) 被告の認定課税価額の不当性

被告は、前記のとおり、形式的に原告の帳簿中に地上権及び賃料の記載があること(ただし、いずれも未払金勘定として処理)を盾にとり、本件土地に借地権が存している旨認定し、その価額を三、五〇〇万円であると主張する。

ところで、被告主張のとおり本件土地使用開始当時の使用権価額一、〇〇〇万円、賃料年額一〇〇万円が妥当な金額であるとすれば、その後わずか二年程度しか経過していないことからして日栄実業に対する右売買の時点における原告の帳簿による使用権価額一、〇〇〇万円も同じくおおむね妥当なものと考えるべきである。

しかるに、被告は他に何ら特段の事情もないのにかかわらず、一方的に本件土地使用開始時の使用権価額を約三・五倍した金額が本件土地使用権の妥当な価額であるとして原告に対し課税してきているのであり、その不当性は明白である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載と同じであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  推計の必要性

1  被告は、原告の係争年度分法人税の課税所得金額の計算に当たり、原告の売上げを推計により算定しているところ、原告は右推計の必要性を争うので、以下、これを検討する。

2  いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第二ないし第四号証、いずれも成立に争いのない同第六、第七号証、第一九号証、証人松沢常朗の証言により真正に成立したものと認められる同第八号証、証人香田亮太郎、同大内美明及び同松沢常朗の各証言並びに原告代表者尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(一)  横浜中税務署の香田亮太郎係官(以下「香田係官」という。)は、昭和四七年七月下旬ころ、横浜市西区楠町に所在する本件建物において通称第三モーテルといういわゆる同伴旅館を経営する原告の係争年度分の法人税の調査に着手し、原告の当時の実質的代表者である小泉在鳳(小泉龍鳳。以下「小泉」という。)に対し、調査の協力方を求めたが、小泉はこれを拒否するなどして非協力的態度を示し、結局、原告側からは、昭和四四年度分については、総勘定元帳や現金出納帳のような帳簿書類の提示はなく、料飲税領収証控の一部が提示されたのみであり、また、同四五年度分については、タイプ印刷された総勘定元帳及び現金出納帳並びに料飲税領収証控及び経費支出控の一部のみが提示された。

(二)  右提示のあった総勘定元帳及び現金出納帳は、原告の非常勤取締役である松沢の許へ、原告が公給領収証控等を数か月分まとめて持ち込み、それによって松沢が作成したものであるが、松沢は、持ち込まれた書類が的確に作成されたか否か、その裏付けとなる資料の存否及び原告の収支を明らかにする上で右書類が過不足ないものであるか否かについて検討することなく、所与のものとして取り扱って、総勘定元帳及び現金出納帳を作成したものである。

(三)  原告の経営する同伴旅館は二八の客室を有し、その料金は、部屋ごと及び宿泊か時間休憩かによって、また、休憩時間によって異にするので、香田係官は原告に対し、提示のあった右総勘定元帳等の正確性を吟味するために、その作成の基となった客室利用記録すなわち個々の利用客ごとの利用時間及び利用料金等を記載した書類の提示を求めたが、原告は既に破棄したとしてこれを拒否した。

(四)  昭和四七年一〇月三〇日及び同年一一月八日に至り、漸く松沢及び小泉から香田係官に対し、申述書が提出されたが、これら申述書によっても原告の係争年度分の売上げを把握するには至らなかったので、やむなく香田係官は原告に対する調査を打ち切って、反面調査を実施することとし、原告へシーツ等を納入していたアメリカンクリナースへ臨場して、係争年度分における原告へのシーツの納入枚数を把握し、また、先に原告から提示のあった料飲税領収証控から利用客一組当たりの平均売上高を算出した。

(五)  以上の次第で、横浜中税務署長は、原告に対する実額に基づく所得の算定をやむを得ず断念し、推計により原告の昭和四四年度分法人税についての更正及び重加算税賦課決定並びに同四五年度分法人税についての更正、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をした。

(六)  右各処分につき原告から異議申立てがあり、右異議の審理を担当した横浜中税務署の大内美明係官(以下「大内係官」という。)は、小泉に面接して調査を実施したところ、原告から昭和四四年一一月一五日から同四五年一月二八日まで及び同年三月一日から同月三一日までの間の料飲税領収証のメモ及び右領収証の集計表並びに同四四年一二月二〇日付けの料飲税領収証控の写し五葉が提示されたが、右期間以外の書類の提示はなく、また、右メモ及び集計表についても右期間の料飲税領収証のすべてを記載して、集計したものであるか否かについては確認することができなかった。

(七)  そこで、被告はこれ以上審理を実施しても、原告の係争年度分の売上げを実額で計算することはできないと判断し、推計により原告の所得金額を算定して、異議申立てに対する決定をした。以上のとおり認められ、右認定に反する原告代表者の供述部分は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告は、その営業の収支算定をするため最も的確な資料と考えられる客室利用記録等の原始記録を破棄して提出せず、また、提出した帳簿書類等は断片的であって、その記載内容の正確性の裏付けとなる資料を欠き、更に原告の実質的代表者である小泉は課税庁の行う税務調査に非協力的であったということができるから、原告についてその所得金額を実額で算定することは不可能であるというほかはなく、したがって、原告の係争年度分の所得金額を推計により算定して課税する必要性があるものというべきである。

原告は、昭和四五年度分については松沢作成の総勘定元帳及び現金出納帳が提示されたのであるから、右書類を利用して収支を算定することは可能であり、推計の必要性はない旨主張するが、前記認定の右総勘定元帳及び現金出納帳の作成の経緯に照らすと、右書類を利用して収支を算定するのは相当ではないから、原告の右主張は採用することができない。

三  原告の昭和四四年度分法人税の課税所得金額

1  支出金額が合計三、七九三万四、三一二円であることは、当事者間に争いがない。

2  原告の収支の内訳については、結局、別表二の被告主張額欄記載の収支項目のうち、売上計上もれ二、三七七万〇、六一二円を除き、その余の収支項目(公租公課の額のうち、三、〇〇〇円及び減価償却費の額のうち、一六六万四、一八四円がいずれも否認されるべきものであることを含む。)については当事者間に争いがない。よって、以下、右売上計上もれ二、三七七万〇、六一二円について検討する。

前掲乙第二、第三号証、第六号証、証人香田亮太郎の証書により真正に成立したものと認められる乙第一号証、右証言及び証人大内美明の証言によると、原告は第三モーテルという名称で本件建物において同伴旅館を営みその利用客に供するシーツをアメリカンクリナースからリースを受けていたところ、原告の昭和四四年度分の営業においてその代金が請求されたシーツの枚数は二万一、五四七枚であること、シーツの品質等についてのトラブルは全くなかったこと、小泉及び原告の同業者の言によれば、シーツ一枚を利用客一組が使用したとすると、シーツの枚数より利用客組数の方が一割ないし二割くらい多いものと考えられること、アメリカンクリナースからリースを受けたシーツは使用人には利用させていないこと、本件建物には客室が二八あり、宿泊料金は、最低が二、六〇〇円、最高が六、〇〇〇円、休憩料金は、最低が一、六〇〇円、最高が三、〇〇〇円であること、原告が提示した昭和四四年一一月一五日から同四五年一月二八日まで及び同年三月一日から同月三一日までの料飲税領収証控に基づき右期間内の利用客一組当たりの平均売上高を計算すると、その金額が二、五八六円であることが認められる。原告はアメリカンクリナースがリースしたシーツの中には客に使用させられないような不良品が混在し、また、原告がリース品以外の品物の洗濯をさせながらその代金を支払わないので、アメリカンクリナースは原告に代金を請求する際にシーツの枚数を水増ししていたから、アメリカンクリナースの原告に対する請求書記載のシーツの枚数と利用客組数は一致しないと主張し、これに沿う甲第二、第三号証の各記載部分及び証人宮川進、原告代表者の各供述部分は、前掲各証拠に照らし措信するができず、とりわけ証人宮川進の右供述部分及び同証人の作成にかかる甲第二、第三号証の右各記載部分は同証人の直接の見聞ではなく、臆測に基づくものであって、根拠が全く薄弱であり、また、原告代表者の右供述部分も具体性を欠き、かつ、事実を誇張するものと認められるから措信することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の認定事実によれば、仮にアメリカンクリナースがリースしたシーツの中に不良品が混在し、また、原告の使用人が右シーツを使用することがあるとしても、その数は利用客の使用する枚数に比べれば極くわずかであると考えられ、しかもその数は到底確知し得るものではなく、また、シーツ枚数より利用客組数の方が一割ないし二割上回るものと考えられるというのであるから、アメリカンクリナースが原告にリースしてその代金を請求したシーツの枚数を利用客組数とし、これに利用客一組当たりの平均売上高を乗じて原告の昭和四四年度分の売上げを推計するのは十分に合理性があるものというべきである。

してみると、原告の昭和四四年度分の売上金額は、五、五七二万〇、五四二円(二万一、五四七組×二、五八六円)であり、売上計上もれは、同金額から原告の申告売上金額三、一九四万九、九三〇円を控除すると、頭書金額のとおり二、三七七万〇、六一二円となることは計算上明らかである。

3  課税所得金額

以上認定判示のとおり原告の昭和四四年度分の売上金額合計は五、五七二万〇、五四二円、支出金額合計は三、七九三万四、三一二円であるから、これらを差引計算すると、課税所得金額は一、七七八万六、二三〇円となることは計算上明らかである。

したがって、右金額の範囲内でされた原告の昭和四四年度分法人税の更正に所得の過大認定の違法はないことが明らかである。

四  原告の昭和四四年度分法人税に関する重加算税賦課決定

右重加算税賦課決定の適否について、以下検討する。

前記二2(一)ないし(七)認定の事実に加え、前掲乙第一号証、第六ないし第八号証、第一九号証、成立に争いのない乙第二一号証の四、証人宮川進の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一六ないし第一八号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二一号証の一及びこれにより原本の存在及び真正に成立したものと認められる同号証の二、三、証人香田亮太郎、同大内美明の各証言によると、以下の事実が認められる。

1  原告の経営する同伴旅館の客室の料金は、部屋及び利用時間によって異なるので、各利用客についての料金の算定は利用された客室及び利用時間等を的確に把握した上でしなければならないので、原告は右事項を記載した書類すなわち客室利用記録を作成していたにもかかわらず、係争年度分の税務調査が実施された昭和四七年七月下旬ころには既に右書類を破棄し、また、利用客に発行した料飲税領収証控もその一部を被告係官に提出しただけで、その大部分は破棄しており、他方、経費についてはこれを明らかにする領収証等の資料がほぼ保存されていた。

2  原告は、利用客が使用するシーツ、浴衣、ピロケース、タオル等をアメリカンクリナースからリースを受けていたが、このうちリースの枚数が判明すれば、利用客組数を把握することができるところ、原告はアメリカンクリナースに対し、右リースに係るシーツ等の各月分の合計枚数を二枚の請求書に分割して発行するように依頼し、アメリカンクリナースは右依頼のとおり実行するか、又はこれに代えてリースした枚数を半減させて、単価を二倍にした請求書を発行した。そして、アメリカンクリナースは右二枚の請求書に係る代金の領収証のうち、一方を基本料金分とし、他方をリネン代分としてそれぞれ発行した。

3  昭和四五年三月末日において、原告は、横須賀信用金庫からの借入金残高が、同四三年二月一四日付けの七、〇〇〇万円の貸付けにかかるものが六、一〇〇万円、同四四年四月一六日付けの一、〇〇〇万円の貸付けにかかるものが八五〇万円、合計六、九九〇万円であるにもかかわらず、同四四年度分法人税の確定申告において、右信用金庫からの借入金期末残高を実際の額より五〇〇万円多い七、四九〇円と申告した。

以上のとおり認められ、右認定に反する甲第二、第三号証の各記載部分、証人宮川進及び原告代表者の各供述部分は前掲各証拠に照らして、いずれも措信することができない。

右認定事実によれば、原告のした前記書類等の破棄、アメリカンクリナースへの請求書等の操作の依頼及び借入金の一部架空計上はいずれも売上金額の隠ぺいを計る意図の下になされたものと認めることができ、したがって、原告は右隠ぺいしたところに基づき昭和四四年度分法人税の課税所得金額につき欠損金を申告したものというべきである。

しかして、原告の隠ぺいしたところに基づく売上除外金額は前記三2判示のとおり二、三七七万〇、六一二円であり、これを前提とする課税所得金額は前記三3判示のとおり一、七七八万六、二三〇円であり、原告の申告課税所得金額は欠損金であるから、結局、重加算税賦課の対象となる増加所得金額は一、七七八万六、二三〇円となる。

したがって、右金額の範囲内でされた原告の昭和四四年度分法人税の重加算税賦課決定には何ら違法の廉はないというべきである。

五  原告の昭和四五年度分法人税の課税所得金額

1  収支内訳について

原告の収支の内訳については、結局別表三の被告主張額欄記載の収支項目のうち売上計上もれ九〇五万四、二七九円、建物譲渡価額過少計上、寄付金の損金不算入額、繰越欠損金の否認、給料手当の額、租税公課の額のうち一四七万九、三六〇円及び寄付金の額を除くその余(広告宣伝費、賃借料、修繕費、営業費、受取利息、雑収入、支払利息割引料、固定資産売却損の額を含む。)は当事者間に争いがない。

よって、以下、右争いのある収支項目について検討する。

(一)  加算項目

(1) 売上計上もれ 九〇五万四、二七九円

前記三2認定の事実に加え、前掲乙第一号証、証人大内美明の証言により原本の存在及び真正に成立したものと認められる同第五号証、証人香田亮太郎、同大内美明の各証言によると、アメリカンクリナースからのリースにより、原告の昭和四五年度分の営業においてその代金が請求されたシーツの枚数は九、五三二枚であること、原告が提示した昭和四五年六月一日から同年八月三一日までの料飲税領収証控等に基づき右期間内の利用客一組当たりの平均売上高を計算すると、その金額が二、四二八円であることが認められ、右認定に反する甲第二、第三号証の各記載部分、証人宮川進、原告代表者の各供述部分は前掲各証拠に照らして措信することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして、右シーツの枚数と利用客一組当たりの平均売上高から売上げを推計する方法に合理性が認められる理由は、前記三2判示のとおりである。

してみると、原告の昭和四五年度分の売上金額は二、三一四万三、六九六円(九、五三二組×二、四二八円)であり、売上計上もれは、同金額から原告の申告売上金額一、四〇八万九、四一七円を控除すると、頭書金額のとおり九〇五万四、二七九円となることは計算上明らかである。

(2) 給料手当否認 七五万二、九二〇円

原告の従業員等の給料手当の合計金額を源泉徴収に係る所得税の一人別徴収簿に基づいて計算すると、三一三万三、七九五円となることは、当事者間に争いがない。

被告の否認に係る差額七五万二、九二〇円につき、原告は期中で採用され、かつ、退職した者が数名おり、これらの者について源泉徴収に係る所得税の一人別徴収簿を作成していなかったので、右の者に対する支払給料合計額七五万二、九二〇円は損金として認容されるべきである旨主張するが、本件全証拠によっても原告主張の右事実を認めることはできない。また、原告代表者は、被告の計算は源泉徴収のみに基づくものであるから、パートタイムの従業員に支払った給料が除外されている旨供述するが、パートタイムの従業員に支払う給料が源泉徴収の対象にならないとする根拠は認められず、また、仮に右のような従業員が存在したとしても、その数、稼働時間及び支払給料の額は、本件全証拠によっても明らかでないから、右差額分に相当する給料手当の存在を認めることはできず、また、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

してみると、被告のした頭書金額の給料手当否認は正当なものというべきである。

(3) 雑収入計上もれ一三万五、五〇〇円は、前記のとおり当事者間に争いがない。

(4) 建物等譲渡価額過少計上 三、五〇〇万円

ア 前掲乙第六、第七号証、いずれも成立に争いのない甲第四ないし第八号証、乙第一〇ないし第一三号証(ただし、乙第一〇号証は原本の存在及び成立に争いがない。)、同第一四号証の一、二、第二三号証、証人香田亮太郎の証言により原本の存在及び真正に成立したものと認められる同第九号証、同証言及び原告代表者尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(a) 三井観光は昭和四三年一月二四日に設立の登記がなされ、小泉が代表取締役に就任していたところ、同四五年八月二三日に小泉が代表取締役を辞任して沢野資之が就任した旨の登記が同年九月二一日になされた。一方、原告は同四四年三月二六日に設立の登記がなされ、当初代表取締役に安東京周が、次いで権叔伊が就任したが、実質上の経営者は小泉であった。金在鳳(小泉の別名。)は、本件土地のうち横浜市西区楠町五番二所在の宅地四九七・四一平方メートルにつき、昭和四三年二月二二日東洋綿花株式会社からの同四二年一二月二八日付売買を原因とする所有権移転登記を経由し、三井観光は本件土地のうちその余の同所五番一〇所在の宅地四二一・三六平方メートルにつき、同日東洋綿花株式会社からの同四二年一二月二八日付売買を原因とする所有権移転登記を経由したが、右両土地は隣地であるところから、小泉と三井観光はそれぞれ右所有土地の持分二分の一を相互に譲渡し、同四三年一二月二六日真正なる登記名義の回復を原因とする右各持分移転の登記を経由し、本件土地の共有者となった。

なお、三井観光は、昭和四三年一一月か一二月ころ本件土地上に同伴旅館用建物として鉄筋コンクリート造陸屋根七階建て、延床面積一、一〇一・一七平方メートルの本件建物を建築したが、建物の登記は未登記のままであった。

(b) 三井観光は本件建物の建築を宇田組に請け負わせ、その代金を手形で支払っていたところ、右手形が不渡りになったので、三井観光の実質的経営者である小泉は、三井観光の整理のため別会社として原告を設立し、三井観光は昭和四四年五月一日に原告に営業譲渡(ただし、本件土地の共有持分権は除かれた。)した旨の公告をした。三井観光は、右公告において、本件建物を八、一八九万六、八五一円と評価し、また、本件建物のために地上権が設定されており、右地上権は一、〇〇〇万円と評価されている。しかして、原告の非常勤取締役である松沢の作成に係る原告の財務諸表上には、右地上権は三井観光と小泉が設定したもので、その評価はそれぞれ五〇〇万円と記載されている。右営業譲渡のころ、小泉は宇田組の代理人と称する沢野資之に対し、三井観光の代表権を移譲した(なお、前記のとおり登記簿上は、沢野が三井観光の代表取締役に就任したのは昭和四五年八月二三日とされている。)。

(c) 原告並びに本件土地の共有者である三井観光及び小泉は、協議の上、昭和四五年七月二一日に本件土地及び本件建物等を一括して日栄実業に対し一億三、五〇〇万円で譲渡し、右売買代金のうちから原告は八、五〇〇万円、三井観光及び小泉は各二、五〇〇万円を受領した。右の本件土地建物の売買契約書によれば、本件土地の価額は五、〇〇〇万円、本件建物の価額は八、五〇〇万円と記載されているところ、本件土地の右価額は取引慣行によれば更地価格と解されること及び本件土地は横浜駅西口から徒歩約一〇分のところに位置するところ、昭和四五年分相続税財産評価基準によれば、正面路線価一五万円の道路に面しているため、その借地権割合は七〇パーセントと評価され、精通者の意見も同様である。

以上のとおり認められ、右認定に反する原告代表者の供述部分は前掲各証拠に照らして措信することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

イ 以上認定の事実によれば、原告は三井観光から営業譲渡を受ける際に、本件建物とともに同建物所有のための本件土地使用権をも譲渡を受けたものと認められるところ、右土地使用権の性質は、本件建物が鉄筋コンクリート造りであって、長期間にわたって、長期間にわたって使用することが予定されている大規模かつ堅固な営業用建物であること、小泉の三井観光に対する実質的経営権が右営業譲渡の際に失われ、三井観光と原告とは同族会社とはいえなくなったこと及び前記営業譲渡公告、財務諸表の各記載に照らすと、借地権と認めて差し支えないものと解される。もっとも、右借地権の対価たる権利金、地代の授受があったことを認めるに足りる証拠は存しないが、かかる金員の授受がないからといって借地権の認定を妨げるものではない。原告は、本件土地の使用関係を使用貸借である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、また、仮に使用貸借であったとしても、本件建物のように堅固かつ大規模な営業用建物の場合には、使用収益の終了しない限りは使用貸借は終了しないものと解されるのであるから、借地権価格相当の価額が存するものと解して差し支えないというべきである。また、原告は本件は借地権の無償返還に類似しているとも主張するが、借地権価格の認められる土地につき、借地権を譲渡又は消滅させる場合には借地権者に借地権価格相当の対価を支払うことは公知の事実であり、本件土地が借地権価格の認められる土地であることは前記認定のとおりであるから、原告の右主張も採用することができない。

ウ してみると、原告の本件土地に対する借地権価額は、本件土地の更地価額五、〇〇〇万円に本件土地の所在地域の借地権割合七〇パーセントを乗じて計算した三、五〇〇万円となる。原告は、仮に借地権価額が認定されるとしても、その価額は三井観光から原告への営業譲渡の際の公告及び原告の財務諸表に計上された一、〇〇〇万円を超えるものではない旨主張するが、課税処分の際の借地権価額の認定は、処分時における当該土地の更地価額及び借地権割合等を考慮してなされるべきものであって、借地関係の当事者がした借地権価額の評価も右処分の際には一つの事情として考慮されるものではあっても、それは絶対的な効力を有するものでないことは明らかであり、また、原告主張の一、〇〇〇万円という評価が妥当なものであると認めるに足りる証拠はないのであるから、原告の右主張は採用するに由ないものというべきである。

したがって、本件土地の共有者である小泉及び三井観光の有する本件土地の底地価額は、更地価額五、〇〇〇万円から借地権価額三、五〇〇万円を差し引いた額一、五〇〇万円となるというべきである。よって、小泉らが、原告らから日栄実業への本件土地建物の売買に際して取得すべき金額は、右底地価額一、五〇〇万円であるにもかかわらず、前記認定のとおり小泉らは各二、五〇〇万円、合計五、〇〇〇万円を取得しているが、前者と後者の差額三、五〇〇万円は本来原告が取得すべき借地権に対する額であり、これを小泉らが取得したのであるから、原告から小泉らに同額の経済的利益の供与をしたこととなり、右供与の額三、五〇〇万円は原告の本件建物等の譲渡の価額として益金に計上すべきものとなる。

してみると、被告のした頭書金額の建物等譲渡価額過少計上の認定は正当なものとして是認することができる。

(5) 寄付金の損金不算入額 一、六九三万六、一一〇円

後記五2(二)(4)認定の寄付金一、七五〇万円につき、法人税法三七条二項の規定により別表四記載のとおり計算すると損金算入限度額を超えており、その超える金額は頭書金額のとおり一、六九三万六、一一〇円となることは計算上明らかである。

してみると、被告のした右金額の損金算入を否認し、益金に加算した計算は正当なものとして是認することができる。

(6) 繰越欠損金否認 四〇四万九、七二二円

原告が青色申告法人でなくなったため欠損金の繰越しが認められなくなったこと及び原告が昭和四五年度分法人税の申告で控除した繰越欠損金が四〇四万九、七二二円であることは、当事者間に争いがない。

してみると、被告のした頭書金額の繰越欠損金否認は正当なものとして是認することができる。

(二)  減算項目

(1) 広告宣伝費認容一〇万〇、五七五円及び賃借料認容四二万九、〇〇〇円は、前記のとおり当事者間に争いがない。

(2) 事業税認定損 一四七万九、三六〇円

前記認定のとおり原告の昭和四四年度分法人税の更正に係る所得金額は一、三四五万三、〇二四円であり、別表五記載のとおり右金額に法人事業税の税率を適用して、同四五年度分の損金に算入すべき未納の事業税を計算すると、頭書金額のとおり一四七万九、三六〇円となる。

(3) 修繕費認容五万一、九〇〇円、営業費認容二万六、〇〇〇円、受取利息過大計上二〇万六、一九二円、支払利息割引料認容五八万八、一五一円、固定資産売却損認容一二〇万円は、前記のとおり当事者間に争いがない。

(4) 寄付金認容

前記五2(一)(4)認定の経済的利益の供与の額三、五〇〇万円の二分の一に相当する額一、七五〇万円は、三井観光が取得したものであるから、法人税法三七条五項により同社に対する寄付金として認容されることとなる。

3  課税所得金額 四、四三四万七、三五三円

当事者間に争いのない前記収支項目に前記認定の加算、減算項目の各金額を加減算すると、原告の昭和四五年度分の課税所得金額は頭書金額のとおり四、四三四万七、三五三円となることは計算上明らかである。

したがって、右金額の範囲内でされた原告の昭和四四年度分法人税の再更正に所得の過大認定の違法はないことが明らかである。

六  原告の昭和四五年度分法人税に関する重加算税及び過少申告加算税各賦課決定

右各賦課決定の適否について、以下検討する。

前記認定判示のとおり原告の昭和四五年度分法人税の売上計上もれは九〇五万四、二七九円、重加算税賦課の対象となる増加所得金額は四、四三四万七、三五三円であるところ、これらはいずれも前記四認定判示の昭和四四年度分法人税に関する重加算税賦課決定の理由と同様の理由により原告の隠ぺいしたところに基づくものと認めることができる。

したがって、右金額の範囲内でされた原告の昭和四五年度分法人税の重加算税賦課決定(昭和四八年五月三一日付異議決定により一部取り消された後のもの)には何ら違法の廉はないものというべきである。

また、前記認定のとおり原告の昭和四五年度分法人税の重加算税賦課の対象とされた所得は七二万七、九六二円(昭和四八年五月三一日付異議決定)であり、それ以外の所得金額は過少申告加算税賦課の対象となるものと解されるところ、その対象となる所得金額は、前記認定の昭和四五年度分の課税所得金額四、四三四万七、三五三円から右重加算税賦課の対象とされる七二万七、九六二円を差し引いた四、三六一万九、三九一円となる。

したがって、右金額の範囲内でされた原告の昭和四五年度分法人税の過少申告加算税賦課決定には何ら違法の廉はないものというべきである。

七  結論

よって、本件各処分に原告主張のような違法はないことが明らかであり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古館清吾 裁判官 吉戒修一 裁判官山崎善久は転補のため、署名 印することができない。裁判長裁判官 古館清吾)

別表一

課税処分の経緯

(一) 昭和44年度分法人税

<省略>

△は欠損金額である。

(二) 昭和45年度分法人税

<省略>

別表二

昭和44年度分

<省略>

別表三

昭和45年度分

<省略>

別表四

寄付金の損金不算入額の計算(法人税法37条、同法施行令73条)

<省略>

別表五

昭和45年度分の損金の額に算入すべき事業税の額の計算

<省略>

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